小倉貴久子所蔵楽器の紹介

J.B.シュトライヒャー製作 (1845年、ウィーン)

Fortepiano made by Johann Baptist Streicher (1845)

 J.B.シュトライヒャーの母親はナネッテ・シュタイン・シュトライヒャー(1769〜1833)。彼女の父親はアンドレアス・シュタイン(1728〜1792)。シュタインは跳ね上げ式ウィーンアクションを芸術作品に高めたメーカーで、ザルツブルグ期のモーツァルトやボン時代のベートーヴェンがその楽器を愛用していたことでも知られる。シュタイン及びシュトライヒャーの家系は当時のドイツ系の作曲家から絶大な信頼を寄せられていた。ナネッテとベートーヴェンの交流も有名な話でベートーヴェンはシュトライヒャーの楽器をとても気に入っていた。シュトライヒャー一族は他の国のメーカーからも一目置かれる存在で、その証にこの写真の楽器の鍵盤表面板に、双頭の鷲、1835年と1839年にオーストリア皇室から金メダルを受賞したことが金文字で描かれている。ところがその後の時代の流れは、鉄骨のフレームを持ち大きな音のでるイギリス式アクションが人気を得てゆき、その機構が現代ピアノへ継承されていくことになる。最期まで木製のフレームにこだわり音の物理的な大きさよりも音色の味わい深さに重きをおいたウィーン式アクションのメーカーは衰退への路を歩んで行った。1845年製のこのシュトライヒャーは、ウィーン式アクション最期の栄華の中で製作されたものである。