シリーズコンサート

小倉貴久子《フォルテピアノの世界》第10回 〜記念公演〜

小倉貴久子のシリーズコンサート《フォルテピアノの世界》

さまざまな時代や地域で生まれた作品を当時のフォルテピアノで楽しいトークとともにお届けします!

2台クラヴィーアのためのコンチェルト

小倉貴久子&川口成彦

2023年12月9日(土)

14:00開演(13:30開場)

第一生命ホール

当公演は終了しました!

J.S.バッハ:2台のクラヴィーアのための協奏曲 ハ短調 BWV1062

C.Ph.E.バッハ:チェンバロとフォルテピアノのための協奏曲 変ホ長調 Wq47/H479

W.A.モーツァルト:2台のクラヴィーアのためのフーガ ハ短調 K.426

2台のクラヴィーアのための協奏曲 変ホ長調 K.365(316a)

フォルテピアノ:小倉貴久子・川口成彦

L'Orchestra del mondo del fortepiano オルケストラ デル モンド デル フォルテピアノ

使用楽器:チェンバロ・ジルバーマン・ヴァルター・ヴァルター

全席指定 4,500円 U-25 2,500円

*U-25は、25歳以下限定のチケットです。入場時に生年月日がわかるものをご提示ください。

*未就学児の入場はご遠慮ください。

 

・チケット発売・お問い合わせ

メヌエット・デア・フリューゲル【主催】TEL 048-688-4921  mail: mdf-ks@piano.zaq.jp

こちらの申し込みフォーム(一般/U-25)よりお申し込みください。

・トリトアーツ・チケットデスク

Tel 03-3532-5702(平日11:00〜17:00) http://triton-arts.net、トリトンアーツ内当公演のページ

・チケット発売

イープラス e+ イープラス内当公演のページ

第一生命ホール

〒104-0053 東京都中央区晴海1-8-9 晴海トリトンスクエア内

都営地下鉄大江戸線「勝どき駅」

A2a出口を出て交差点を渡らずに左へ徒歩8分

TEL 03-3532-3535(第一生命ホール)

https://www.dai-ichi-seimei-hall.jp/

〔アクセス〕 

共催:認定NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール

日本モーツァルト愛好会 第529回 例会

助成:朝日新聞文化財団 協賛:glittantique

協力:Ohtagakki Fortepiano、久保田チェンバロ工房

後援:日本モーツァルト愛好会/東京藝術大学音楽学部同声会/日本モーツァルト協会/(一社)全日本ピアノ指導者協会


 18世紀はフォルテピアノが誕生してチェンバロと共存していた時代。C.Ph.E.バッハの「チェンバロとフォルテピアノのための協奏曲」は、まさにこの2種の楽器の音色の違いを愉しむユニークな作品。父バッハの作品とともに、チェンバロと、バッハ親子が愛用したジルバーマン製フォルテピアノで演奏します。モーツァルトの2台の協奏曲とフーガは、モーツァルト愛用のヴァルター製フォルテピアノ2台で華やかな世界に。

 今をときめく鍵盤楽器奏者の川口成彦さんと共に、チェンバロ、ジルバーマン、ヴァルター2台とピリオド楽器オーケストラが登場。鍵盤楽器の歴史も体感できる、贅沢で楽しいコンサートです。


川口 成彦 Naruhiko Kawaguchi

 

 第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位、ブルージュ国際古楽コンクール最高位。フィレンツェ五月音楽祭、モンテヴェルディ音楽祭はじめ欧州の音楽祭にも出演を重ねる。協奏曲では18世紀オーケストラ、{oh!} Orkiestra Historycznaなどと共演。東京藝術大学/アムステルダム音楽院の古楽科修士課程修了。小倉貴久子、リチャード・エガーの各氏に師事。第46回日本ショパン協会賞受賞。第31回日本製鉄音楽賞 フレッシュアーティスト賞受賞。CDは自主レーベルMUSISより発表した『ゴヤの生きたスペインより』(レコード芸術/朝日新聞特選盤)など。


L'Orchestra del mondo del fortepiano オルケストラ・デル・モンド・デル・フォルテピアノ)ピリオド楽器使用

コンサートマスター:丸山 韶 Sho Maruyama

ヴァイオリン:佐々木梨花 Rika Sasaki、遠藤結子 Yuiko Endo、山本佳輝 Yoshiki Yamamoto、廣海史帆 Shiho Hiromi

ヴィオラ:高岸卓人 Takuto Takagishi、勝森菜々 Nana Katsumori

チェロ:野津真亮 Shinsuke Notsu

コントラバス:諸岡典経 Noritsune Morooka

フルート:菅きよみ Kiyomi Suga、岩崎花保 Kaho Iwasaki

オーボエ:三宮正満 Masamitsu San’nomiya、荒井 豪 Go Arai

ファゴット: 長谷川太郎 Taro Hasegawa、岡本あけみ Akemi Okamoto

ホルン:塚田 聡 Satoshi Tsukada、藤田麻理絵 Marie Fujita

Cembalo mid-18th century (Joop Klinkhamer)

G.Silbermann 1746 (Akira Kubota)

A.Walter 1795 (Itaru Ohtagaki)

A.Walter 1795 (Ch.Maene)



【週報】聴きどころ

この演奏会の聴きどころを定期的に掲載してきました!

聴きどころ(1)〜使用する鍵盤楽器について〜

J.S.バッハの次男、C.Ph.E.バッハは「チェンバロとフォルテピアノのためのコンチェルト」という珍しい編成の作品を残しています。

彼の生きた時代は、チェンバロ全盛のバロック時代から、18世紀初頭に産声を上げたフォルテピアノが広まりゆく時代と重なります。C.Ph.E.バッハが弾いていたフォルテピアノは、ピアノの発明者クリストーフォリをモデルに、ジルバーマンが製作したものです。コンサートでは、ジルバーマン(久保田彰製)とチェンバロが、ピリオドオーケストラをバックに、対話をするように掛け合いを繰り返します。

生で音色の違いも愉しめるまたとないチャンスです!

聴きどころ(2)〜プログラム前半で使用する鍵盤楽器について〜

ヨハン・セバスティアン・バッハはライプツィヒで、学生から依頼を受けさまざまな編成の器楽作品を作曲し、毎週のようにカフェ・ツィンマーマンを舞台に演奏会を行なっていました。

その団体「コレギウム・ムジクム」で頻繁に演奏されたのが、チェンバロをソロとするコンチェルトで、おそらくバッハ自身に息子や弟子たちがソリストとして登場したのでしょう。4台のチェンバロをソリストにしつらえた作品まで存在します(ヴィヴァルディ「調和の霊感」の編曲)。

当公演の最初にお届けする、J.S.バッハのハ短調のコンチェルトは、2台のチェンバロのためのコンチェルトで、この作品は、有名な2台ヴァイオリンのためのコンチェルト ニ短調をバッハ自身が編曲したものです。

《フォルテピアノの世界》第10回記念公演では、チェンバロとジルバーマンのフォルテピアノを用いて演奏します。

父、J.S.バッハもフリードリヒ大王に謁見した際にサンスーシー宮殿で弾いたことのあるジルバーマンのフォルテピアノ(久保田彰製)とチェンバロの対話を生で体感するまたとない機会です!

聴きどころ(3)〜プログラム後半で使用する鍵盤楽器について〜

当演奏会のプログラム後半は、2台のアントン・ヴァルターの楽器がピリオドオーケストラの前に並びます。

ヴァルターは、ウィーンに出てきてからのモーツァルトが愛奏したことで知られるウィーンを代表するメーカーです。プログラム前半のジルバーマンのフォルテピアノとはアクションが異なり、ハンマーを梃子の原理で跳ね上げるウィーン式、もしくは跳ね上げ式とよばれるアクションをもっています。軽快で華やかな音色をもっていますが、カンタービレに歌うことも得意です。

プログラム後半では、まず〈2台クラヴィーアのためのフーガ〉をお届けします。ヴァルターの楽器で演奏すると、複雑な対位法が明瞭に浮かび上がり掛け合いの効果が抜群です。

そして演奏会最後の曲は、2台のクラヴィーアをソリストとするモーツァルトのコンチェルト。当時の管楽器、弦楽器と2台のクラヴィーアが瑞々しく渡り合う音楽に興奮を覚えずにはいられないでしょう。

一台のヴァルターは、昔より小倉貴久子が愛奏するクリス・マーネ製作のもので、もう一台はこのほど太田垣至工房で産声を上げた新作ヴァルターになります。両方の楽器の音色の違いもお愉しみいただきます。

聴きどころ(4)〜コンサートマスターの紹介〜

《フォルテピアノの世界》の前のシリーズ《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》は隔月に開催され2019年に第40回公演をもって終了しました。

このモーツァルトのシリーズでは10回ごとに〈記念公演〉と銘打ってオーケストラとコンチェルトを演奏してきました。こちらで詳しい情報をご覧ください。

さて、シリーズ《フォルテピアノの世界》も第10回〈記念公演〉は、ピリオド楽器のスペシャリストたちによる〈オルケストラ・デル・モンド・デル・フォルテピアノ〉を組織してコンチェルトをお届けします。

コンサートマスターは、情熱的で甘美なヴァイオリン演奏で注目を集める丸山 韶さん。

ご自身がディレクターを務めるLa Musica Collanaでは、古典派&バロックコンチェルトシリーズなどで積極的に活動を展開しています。

丸山 韶さんは当シリーズ第2回でも共演。こちらで第2回公演の動画をご覧いただくことができます。

オーケストラの弦楽器奏者は、彼が日頃から共演している若手奏者に結集してもらいました。フレッシュで華やかな演奏が期待できます!

オーケストラメンバーのプロフィールはこちら

聴きどころ(5)〜ホルンの紹介〜

〈オルケストラ・デル・モンド・デル・フォルテピアノ〉にはフルート、オーボエ、ファゴット、ホルンの管楽器が参加します。

この中から今日はホルンの紹介をしましょう。

狩猟で使われていた角笛が、17世紀に入ると真鍮の管を円形にまるめてつくられるようになり、次第に楽器として認知されるようになっていくわけですが、J.S.Bachはこの楽器を縦横無尽に使いながらも、楽器名には「corno da caccia(狩猟ホルン)」と最期まで記していました。

18世紀も後半になり、古典派の時代に入ると、野外でもっぱら使われていたホルンが古典派時代の明確な和声にマッチしたこともあり大いにもてはやされるようになります。古典派のメインジャンルであるシンフォニーにはホルンが入ることがその必要条件となります。

さて、このコンサートで使用する楽器を紹介しましょう。

C.Ph.E.Bachの作品では、旧来型の「狩猟ホルン」タイプの楽器(写真上)を。Mozartでは、チューニング管のついた古典タイプのホルン(下)をベルの中に右手を入れて演奏します。その奏法や楽器の違いにも注目してお楽しみください!

聴きどころ(6)〜フルートの紹介〜

〈オルケストラ・デル・モンド・デル・フォルテピアノ〉にはフルート、オーボエ、ファゴット、ホルンの管楽器が参加します。

今回はフルートを紹介しましょう。

フォルテピアノが産声を上げた18世紀の初頭、フルートにも大きな変革がもたらされました。それまでのフルート(今日ルネサンスフルートと呼ばれている)は、直管で6つの指穴が空いているだけの楽器だったものが、フランスのオトテール一族などが中心となり2つの重要な改変が施されました。

ひとつは先に行くほど細くなる錐管に形状が改められたこと。それから右手の小指に、押さえると開放されるキーがつけられました。この2つの改変により、フルートは2オクターブ以上の音域と、全ての調性に対応できる半音階を手に入れたのです。

フラウト・トラヴェルソ(横笛の意)と呼ばれるこの一鍵フルートはたちまち人気を呼び、多くの愛好家が誕生し、作品も雨後の筍のごとくどんどん出版されるようになります。18世紀も半ばになるとリコーダー(縦笛)を凌駕し、トラヴェルソの黄金時代を迎えることになります。

C.Ph.E.Bachの「チェンバロとフォルテピアノのためのコンチェルト」では、フラウト・トラヴェルソ2本が大活躍します。鍵盤楽器の掛け合いばかりに耳が行ってしまいそうですが、フルートやホルン、そして弦楽器の茶々入れが楽しい曲ですので、そんなオーケストレーションの妙にもご注目いただき、お楽しみください。(写真はイメージです)

聴きどころ(7)〜第一生命ホール(トリトン・アーツ・ネットワーク)〜

2001年に晴海トリトンスクエアに開館した第一生命ホールと小倉貴久子の縁は長く、2004年に「ソロ」「室内楽」「コンチェルト」と3回にわたって開催された『小倉貴久子〈モーツァルトの世界〉』を皮切りに、『ショパンのアンサンブル』『ベートーヴェンのアンサンブル』『シューマン夫妻』『メンデルスゾーン』『ショパンのピアノコンチェルトの室内楽版』と、毎年のように公演を重ねてきました。

トリトン・アーツ・ネットワークとは、中央区内の小・中・高等学校にフォルテピアノを持ち込んでのアウトリーチ活動を一緒に企画したり、ホール主催の『昼の音楽さんぽ』にも2度にわたり出演させていただきました。

前シリーズコンサート《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》でも、十回毎のコンチェルト公演を第一生命ホールで催し、第30回はライブCD 【J.C.バッハとW.A.モーツァルトのクラヴィーア協奏曲 】にもなり、レコード芸術特選盤、毎日新聞、朝日新聞特選盤などで紹介される大好評のディスクとなりました。

当シリーズも第10回の記念公演をこの素敵なホールで催せることにワクワクしています。

700席の第一生命ホールは、フォルテピアノと、ピリオド楽器のオーケストラの音色がこの上なく美しく理想的に響きます。トリトンアーツのスタッフのみなさんにはいつもコンサートを盛り上げていただき、幸せ感いっぱいのコンサートに!

土曜日の午後、第一生命ホールに響くフォルテピアノとオーケストラの響きをぜひ楽しみにいらしてください!

(写真は〈モーツァルトのクラヴィーアのある部屋第30回〉の終演後に撮影したもの)

聴きどころ(8)〜ジルバーマン到着〜

本日(11月21日)、久保田チェンバロ工房からシルバーマンが到着しました。

この楽器は、Gottfried Silbermannが1764年に製作した楽器を久保田彰さんが復元したものです。

写真=チェンバロと抱き合わせになり川口成彦さんとのリハーサルを待つジルバーマン。

〜〜〜〜〜

1700年頃イタリア、メディチ家の鍵盤楽器製作家クリストーフォリは、ダンパーとハンマーをもつ打弦機構のアクションによって、小さな音も大きな音も出すことができる鍵盤楽器の発明に成功しました。ヴェローナの文筆家マッフェイはこの新種の楽器を彼の論文の中で「グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(弱音と強音をもつチェンバロ)」と呼び、その長い名前は時を経て短縮され「フォルテピアノ」や「ピアノフォルテ」と呼ばれるようになります。

このマッフェイの論文を読んだドイツの鍵盤楽器製作家、G.ジルバーマンは、1730年代にクリストーフォリのモデルによるフォルテピアノの製作を試みますが、ヨハン・セバスティアン・バッハから「タッチが重く、高音が弱い」と批判されてしまいます。

ジルバーマンはその後改良を重ねて1745年頃、高品質なフォルテピアノの製作に成功。ポツダムのフリードリヒ大王はその新種の楽器を気に入り、サン・スーシ宮殿にはチェンバロと共に何台ものフォルテピアノが置かれることとなりました。

フリードリヒ大王のもとで仕えていたJ.S.バッハの次男カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは、ジルバーマンのフォルテピアノを愛用したことで知られています。

C.P.E.バッハは、著書『正しいクラヴィーア奏法』の中で、フォルテピアノはその特別なアクションゆえ弾きこなすのが難しいが、さまざまな効果を生み出す美しい音色であると賞賛しています。

1747年にサン・スーシ宮殿を訪れた父バッハは、今度はこのジルバーマンのフォルテピアノに非常に満足して、王が提示したテーマで三声のリチェルカーレ〈音楽の捧げ物〉を即興演奏したというエピソードが残されています。J.S.バッハにとっては晩年に出会ったフォルテピアノでしたが、ジルバーマン・フォルテピアノの販売に協力した記録が残されています。

聴きどころ(9)〜楽器参集〜

第10回記念公演まであと2週間となりました!

今朝は太田垣至さん製作のヴァルターが搬入されて、音楽室にコンサートに登場する4台の楽器が集結(左からチェンバロ、ジルバーマン、ヴァルター2台)!楽器たちもコンサートを楽しみにしているようです!

聴きどころ(10)〜チェンバロ&ジルバーマン〜

川口成彦さんとのふたりでのリハーサルが始まりました。

チェンバロとジルバーマンが交代でメロディーを奏で、時に3度で旋律をハモらせ・・

発音機構の異なるこの2台のバランスや響きはどのようになるのか未知の世界に私たちもドキドキでしたが、楽器の個性が主張されながらもハーモニーは溶け合い、絶妙なバランスが現れ出し、とてもエキサイティングな合わせになりました!

聴きどころ(11)〜小倉貴久子《フォルテピアノの世界》の軌跡ポスター〜

演奏会まであと10日になりました。演奏会の準備が着々と進んでいます。

今日はロビーに掲示する、第1回からの《フォルテピアノの世界》の軌跡ポスターを作成しました。

ちょっとお楽しみ会のようなポスターになってしまいましたが、今回は《フォルテピアノの世界》第10回を記念するコンサートでもあるので、楽しくお祭りのようなカラフルな演奏会になればと思っています!

↓これまでの《フォルテピアノの世界》の軌跡をこちらのページでご覧ください。

https://www.mdf-ks.com/mondo/

聴きどころ(12)〜〈まもなく開演〉動画〜

聴きどころ(13)〜プログラム後半に並ぶ2台のヴァルター・ピアノ〜

プログラム後半は、ウィーンでモーツァルトが愛奏したことでも知られる、アントン・ヴァルターのピアノが2台舞台に並びます。

1台は小倉貴久子が所蔵するクリス・マーネが1995年に製作したもの。そしてもう1台は太田垣 至が今年完成させたヴァルターです。

この2台のヴァルターがどんな対話を繰り広げてくれるのか。演奏者のふたりもワクワクドキドキしています!

〜〜〜〜〜

G.ジルバーマンの甥のJ.H.ジルバーマンの工房でフォルテピアノ製作を修行したJ.A.シュタインは、クリストーフォリ=ジルバーマン式のアクションとは異なる、タッチがよりダイレクトに伝わる「跳ね上げ式(ウィーン式)アクション」を発明します。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは父への手紙の中で、シュタインのフォルテピアノを絶賛しています。その約5年後、ウィーンに定住してフリーランスの音楽家として活躍するモーツァルトが手に入れたのは、A.ヴァルターのフォルテピアノです。ヴァルターは当時のウィーンで最も人気と実力のあった製作家で、シュタインの発明した跳ね上げ式アクションを引き継ぎました。モーツァルトはコンサートの度ごとにヴァルターのフォルテピアノを運んで演奏していました。

モーツァルトはウィーンでの音楽活動が軌道に乗り出した頃の1782年、ザルツブルクの父に宛てた手紙に「毎日曜日、ファン・スヴィーテン男爵のところへ行きます。そこでは、ヘンデルとバッハ以外は何も演奏されません。いま、バッハのフーガを集めています。セバスティアンの作品だけでなく、エマヌエルやフリーデマン・バッハのも含めてです」と書いています。ファン・スヴィーテン男爵とは、モーツァルトやベートーヴェンを支援したパトロンです。アマチュアの音楽家でもあった才能溢れるファン・スヴィーテン男爵は、1770年から7年間、駐プロイセン大使としてベルリンに滞在します。このとき、フリードリヒ大王との交流から、C.P.E.バッハやW.F.バッハとも知己を得て、彼らの父J.S.バッハの作品も知り、バロック音楽の素晴らしさに開眼し、バッハとその一族の楽譜を山のように手に入れてウィーンへ帰ってきました。そして毎日曜日、宮廷図書館内の男爵の部屋でバロック音楽のみを演奏する《日曜コンサート》が催されました。モーツァルトは毎週熱心に出席して、たくさんのバロック音楽を知り、吸収していったのです。

〈2台のクラヴィーアのためのフーガ ハ短調 K.426〉は、そんなモーツァルトのフーガ熱から生まれた作品です。

ザルツブルク時代に作曲された〈2台のクラヴィーアのための協奏曲 変ホ長調 K.365(316a)〉は、おそらく姉ナンネルとともに演奏するために書かれたと思われます。仲の良い姉弟が楽しく呼応し合ったり、3度や6度音程でハモるようにパッセージが飛翔する喜びに溢れた作品です。ウィーン登壇後も弟子のアウエルンハンマー嬢と共演するなど、モーツァルトお気に入りの作品でした。

なお今回、〈2台のクラヴィーアのための協奏曲 変ホ長調 K.365(316a)〉は、2オーボエ、2ファゴット、2ホルンの編成による1779年のザルツブルク版を使用して演奏します。

(写真は2台のヴァルター・ピアノを弾く小倉貴久子と川口成彦)

聴きどころ(14)〜2021年昼の音楽さんぽの動画〜

2021年10月8日に第一生命ホールで行われた〈雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第27回 小倉貴久子&川口成彦 フォルテピアノ・デュオ〉公演の動画

W.A.モーツァルト:2台のクラヴィーアのためのソナタ ニ長調 K.448より第2楽章

聴きどころ(15)〜リハーサルのようす〜

岩崎花保チャンネルで〈リハーサルのようす〉動画が紹介されています!


演奏会の模様


音楽の友 2024年4月号 Concert Reviews

 小倉は「フォルテピアノの世界」シリーズ10回目を記念して教え子の川口成彦をゲストに迎え、鍵盤楽器2台のための協奏曲を小編成のピリオド楽器アンサンブルと演奏した。前半のバッハ親子はチェンバロとG.ジルバーマンのフォルテピアノ。後半のモーツァルトはA.ヴァルターのフォルテピアノ。ステージ上に4台の鍵盤楽器が並ぶ光景は壮観だ。父バッハではピリオド楽器の弦楽器のやわらかな響きこそ耳を引きつけたものの、鍵盤楽器とのバランスを整え、はっきりと伝えるのは至難の業と思えた。だが没年と同じ1788年、74歳の最円熟期のC.P.E.バッハが完成したチェンバロ、フォルテピアノの組み合わせのオリジナル作品は時代様式をまったく異にする作風で精彩を放ち、音像もくっきりと浮かび上がった。モーツァルトではバッハ流の対位法を駆使した鍵盤2台だけのフーガと、愉悦感に満ちた協奏曲の対照が見事。前者が二人の対話なら、後者は「シンクロナイズドスイミングを思わせる呼吸の一致」で聴かせる。協奏曲では管弦楽のトゥッティにも鍵盤を重ね、全員一体で音楽の悦びを歌い上げた。(池田卓夫氏による評)