新シリーズスタート!!
小倉貴久子の新シリーズ《フォルテピアノの世界》
さまざまな時代や地域で生まれた作品を当時のフォルテピアノで、楽しいトークととともにお届けします!
〜ベートーヴェン初期・中期・後期のソナタを3台のフォルテピアノとともに〜
2020年11月12日(木)19時開演(18:15開場)
東京文化会館 小ホール
この公演は終了しました。
Ludwig van Beethoven 1770-1828
クラヴィーア・ソナタ 第1番 へ短調 作品2-1〔A.Walter ヴァルター(Wien 1795 復元楽器)〕
クラヴィーア・ソナタ 第23番 へ短調 作品57「熱情」〔J.Broadwood ブロードウッド(London c1800)〕
クラヴィーア・ソナタ 第29番 変ロ長調 作品106「ハンマークラヴィーア」〔J.B.Streicher シュトライヒャー(Wien 1845)〕
全席指定:4,000円 U-25 2,000円
*U-25は、25歳以下限定のチケットです。入館時に生年月日がわかるもの(保険証・学生証など)をご提示ください。
*未就学児の入場はご遠慮ください。
チケット発売:
東京文化会館チケットサービス
イープラス
メヌエット・デア・フリューゲル
主催・お問合せ:
メヌエット・デア・フリューゲル Mail: mdf-ks@piano.zaq.jp
助成:NOMURA 野村財団
後援:日本ベートーヴェンクライス/一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)/東京藝術大学音楽学部同声会
新シリーズは、フォルテピアノの変遷と人生が重なる、まさに《フォルテピアノの世界》を切り開いた今年生誕250年を迎えるベートーヴェンで幕を開けます。
初期・中期・後期のソナタから1曲ずつをお届けします。
鮮烈なウィーンデビューを飾ったソナタ第1番は、当時のベートーヴェンが愛用したウィーンの5オクターヴのA.ヴァルターで。
ソナタ「熱情」は、感化されたイギリス式アクションの5オクターヴ半のJ.ブロードウッドで。
そしてクラヴィーア・ソナタの金字塔「ハンマークラヴィーア」は親子三代にわたってベートーヴェンと親密な関係にあった6オクターヴ半の音域をもつJ.B.シュトライヒャーで演奏します。
3台のフォルテピアノとソナタの作風の変化を一晩で体験できる贅沢な夜。
新シリーズへの、みなさまのご来場をお待ちしています。
小倉貴久子
[新型コロナウイルス感染防止対策について]
本公演は新型コロナウイルス感染拡大防止策を講じて開催します。
客席およびロビーの密集を避けるためそう客席の約半数で満席となります。当日、健康状態に不安を覚える方のご来場はお控えくださいますようお願いいたします。
東京文化会館発表の新型コロナウイルス感染防止のための注意事項・メヌエット・デア・フリューゲルの対応方法を、こちらに掲げていますので、ご来場前にご一読をお願いします。また、開催の可否などの情報も逐一このページで報告してゆきます。
A.ヴァルター(1795年製の復元楽器 C.マーネ製作)
Insturment : Fortepiano by Chris Maene after Anton Walter
ウィーン式(跳ね上げ式)アクションのフォルテピアノ
ウィーン古典派の巨匠モーツァルトやベートーヴェンに支持されたフォルテピアノ。膝レバーによるダンパー解放装置と、弦とハンマーの間に薄い布を挟み込み音色を変化させるモデラートが付いている。ハンマーヘッドは鹿革で、鉄弦と真鍮弦(低音域)が木製のケースに弱い張力で張られている。軽いタッチ、明快な発音、倍音の豊かな音色が魅力。
John Broadwood & son Ca.1800(太田垣 至修復 2020年)
Insturment : Fortepiano by John Broadwood & son restored by Itaru Ohtagaki
John Broadwood & sonsは現存する最古のピアノメーカー。創立者のジョン・ブロードウッドは当時英国を代表するチェンバロ製作家、シューディの工房で修行し、工房を継ぐ形でピアノ工房を設立する。英国初のグランドピアノの設計やダンパーペダルの開発などの功績を残す。
ハイドン、ベートーヴェン、ショパン、などがブロードウッドのピアノを愛用した。
今回使用の楽器は1800年頃製作の5オクターブ半のイギリス式シングルエスケープメント。ベートーヴェンが1803年にエラールより贈られた楽器と音域、アクション機構が類似する。ベートーヴェンは1818年にブロードウッドより贈られた6オクターブの楽器でハンマークラヴィアソナタなどを作曲した。
J.B.シュトライヒャー(1845年製)
Insturment : Fortepiano by Johann Baptist Streicher
シュトライヒャー一家は19世紀ウィーンを代表する楽器製作家一族。ヨハン・バプティスト(1796-1871)は、ベートーヴェンとゆかりの深かったナネッテ(1769-1833)&ヨハン・アンドレアス・シュトライヒャー(1761-1833)夫妻の息子にあたる。1845年製の製造番号No.3927は、ウィーン式(跳ね上げ式)の打弦機構を備えており、音域は6オクターヴ半強(80鍵、C1-g4)を数える。弦の張力から木製のケースを守るため鉄柱が2本のみ使われており、ハンマーは皮で何層にも巻かれている。シンプルなアクションゆえの細やかな表現が魅力で、香り立つかのような音色が特徴の一台。
【批評】
18世紀末から19世紀半ばまでのスタイルの楽器が3台、舞台に並ぶ。小倉がそれらを弾き分けて、作曲家の創作と当時の楽器のありようとの抜き差しならぬ関係を、浮き彫りにしていく。
作品2−1(第1番)の冒頭、鼻にかかったような中低音から、抜けのよい高音へと移りゆく上行音形が、雲の晴れていくような様子に仕上がる。音域によって音色の異なるヴァルター・ピアノの特性ゆえだ。その音色の違いが子音(音の出端の雑音成分)の利いた発音と相まって、複数の「登場人物」を描き出す。
《熱情》の楽器はブロードウッド製。ヴァルターの低音部にあった重々しさが、全音域におよぶ。サウンドに厚みが増える一方、子音は後退気味。おしゃべりの内容から音色のふくよかさへと時代の好みの移る様子がわかる。こうした二律背反が、シュトライヒャー・ピアノを使った《ハンマークラヴィーア》になると統合される。楽器が子音の多彩さ・音色の差異・サウンドの広がりのすべてを備えるからだ。その結果、大きな音楽空間のなかで盛んにおしゃべりを交わし合うような楽想が、会場に広がる。作品と楽器それぞれの特長、されに両者の関係をくっきりと縁取った奏者の腕前に唸らされた。(音楽の友2021年1月号 Concert Reviews 澤谷夏樹氏の評)