ベートーヴェン:ハンマークラヴィーア

フォルテピアノ:小倉貴久子

 

収録曲:

L.v.ベートーヴェン:

クラヴィーア・ソナタ ホ短調 Op.90(第27番)

クラヴィーア・ソナタ イ長調 Op.101(第28番)

クラヴィーア・ソナタ 変ロ長調 Op.106《ハンマークラヴィーア》(第29番)

使用フォルテピアノ:J.B.シュトライヒャー(ウィーン 1845年)

[録音]2020年7月 相模湖交流センター [発売]2020年12月

[ブックレット]巻頭言:平野 昭、プログラムノート:小倉貴久子、ベートーヴェンとシュトライヒャー:筒井はる香、Booklet in English enclosed 全22ページ

ALM Records ALCD-1201 3,080円(税込価格)

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CD:ハンマークラヴィーア

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このディスクは〈朝日新聞〉と〈読売新聞〉、〈音楽現代〉で推薦盤として、〈レコード芸術〉で特選盤として紹介されました。

1845年製J.B.シュトライヒャーのフォルテピアノで聴く、ベートーヴェンの後期傑作《ハンマークラヴィーア》と、それに連なる2つのソナタ。フォルテピアノの表現技法を知り尽くした小倉貴久子が、ダイナミックかつ繊細な「歌う」音色によって、ロマンティックな生命力と多声書法のテクスチャーを生き生きと浮かび上がらせ、後期ソナタ演奏に新たな視座を切り開く。

【推薦盤】作曲当時のピアノの音域や音のキレの限界を飛び越えたピアノソナタ第29番を、1840年代のフォルテピアノで聴く。可能と不可能の際のところで、楽聖の大胆不敵と奏者の勇猛果敢が真っ向勝負。スリル炸裂!(片山杜秀氏 2020年12月17日朝日新聞夕刊)

 

【推薦盤】弦を交差させずに張りハンマーに鹿皮を用いたJ.B.シュトライヒャー作のフォルテピアノを使用。クリアな音と音楽の明快な脈略はそのおかげでもあろうが、なんといっても小倉貴久子のポジティヴな気に満ちた演奏による。表題作のほか、ソナタ第27、28番を収める(ALM)(2020年12月17日読売新聞夕刊)

 

フォルテピアノ奏者の小倉貴久子がベートーヴェンの記念年に録音したのは、後期クラヴィーアソナタの様式が確立された頃である、第27番、第28番、第29番のソナタ。使用された1845年製J.B.シュトライヒャーは、ベートーヴェンが信頼した製作者一族による楽器。フォルテピアノならではの音のバランス、トリルの音の質感や、それらを自在に操る小倉の音の粒立ちのおかげで、ベートーヴェンの音楽的な「攻め」の姿勢がくっきり耳に届く。ハーモニーの厚みの変化も新鮮。「ハンマークラヴィーア」のクールさは特に強いインパクトを残す。ベートーヴェンの脳内の耳が求めた音楽に迫る録音。(ぶらあぼ 2021年1月号 New Release Selection 高坂はる香氏の評)

 

【推薦】「フォルテピアノ演奏の第一人者」と呼ばれるにふさわしい実績および実力の持主、小倉貴久子が、2020年、(思えば不幸に見舞われた)「ベートーヴェン・イヤー(生誕250年)」を期してか、甚だ意欲的なベートーヴェン・ソナタ集のアルバムを録音・発表した。なにしろ、演奏曲目が第27番(ホ短調作品90)、第28番(イ長調作品101)と併せて、第29番《ハンマークラヴィーア》(変ロ長調作品106)なのだから。もともとベートーヴェンが彼の時代のピアノーこんにち私たちがフォルテピアノと呼ぶところのーのために書いたのだから「弾ける」ことは疑いを容れぬにせよ、昔も今も、これが古今最大の難曲に属することは疑いない。小倉がここで奏でているのは、ウィーンのヨハン・バプティスト・シュトライヒャーが製作したピアノで、音域は6オクターヴと5度。1845年と言えばベートーヴェン没後18年を経ており必ずしも同時代の楽器とは言えないわけだが、ベートーヴェンがその晩年最も好み信頼したのが、このピアノの系列をさかのぼるシュタイン=シュトライヒャー製のピアノであったことを思えば、この楽器の上に再現された楽聖後期のソナタが、望まれる限り最も正統な姿である、という推定に誤りはあるまい。彼女が満幅の自信をこめて表現する《ハンマークラヴィーア》(および先立つ2曲のソナタ)は、まことに、楽曲の真の姿を示すものと見られよう。技術的にも、解釈上にも、そのことは保証できる。(レコード芸術2021年1月号・濱田滋郎氏の評)

 

【推薦】先日東京文化会館小ホールで開催された小倉貴久子の「フォルテピアノの世界」第1回を聴いた。ヴァルターとブロードウッド、ナネッテの息子J.B.シュトライヒャー(1845年)でソナタ第1番、《熱情》《ハンマークラヴィーア》の3曲。昨今楽器の弾き比べは珍しくないが、ヴァルターとブロードウッド(1800年頃)を交互に聴くことはあまりないので興味深かった。なによりも《ハンマークラヴィーア》が見事だった。当盤は第27〜29番の3曲をコンサートと同じシュトライヒャーで弾いている。第29番(1817〜18年)の作曲年代からいって随分後だ。でも第3・4楽章はベートーヴェンが同曲の作曲中に想定していたと考えられるナネッテ・シュトライヒャーは音域が足りず、当時このソナタを全楽章通して弾ける楽器がなかったことを考えれば納得がゆく(少し後のグラーフもありだと思うけど)。鉄の支柱を持つが現代の木製の箱全体を鳴らすサウンドは暖かくふくらみがあり良く歌う。第27番第1楽章冒頭のリズムは生き生きとして緊張と弛緩の変化が明快。第2楽章も軽やかなテンポで情感は迫真に満ち、その時々の情感に委ねるような即興的な趣もある。第28番は暖かな心情に溢れ、まさにこのピアノの音色にぴったり。演奏の密度の濃さは小倉のピアニズムの美質だ。第29番は技術的な精度が高く、デュナーミクの繊細なグラデーションを含めて、整理された明快な表現で堅牢な楽曲構造が示される。今月のベスト3の一つ。(レコード芸術2021年1月号・那須田務氏の評)

 

[録音評]神奈川県立相模湖交流センターでのセッション録音だか、弾き手がホールの響きを聴きながら弾いているのがわかる。力ずくで弾くのではなく、浸透力のある音でホール全体に波紋を広げていくような鳴らし方。その波紋の節をきれいに捉えている録音で、音ひとつひとつが積み重なって立体的な構築物として見えてくる。そんなサウンド・ステージであり、音像だ。〈93点〉(レコード芸術2021年1月号・鈴木 裕氏の評)

 

【推薦】 ベートーヴェンにとって1810年代の半ば数年間は、スランプを脱し《第九》や《荘厳ミサ》の世界に至る、「創造の危機とその克服」の極めて重要な時期だが、小倉はこの時期のソナタの名作3曲を、フォルテピアノの特性を生かし圧倒的な力強さと思い入れで見事に弾き切っている。デュナーミクや音の減衰の配慮、速めのテンポ設定など、1845年シュトライヒャー製の楽器の特性を十分考えた演奏ともなっている。それにしても、こういう革新的な、演奏史への問題提起的な解釈を聴くと、ほとんど耳が聞こえなくなっていただろうベートーヴェンの感覚、聴覚記憶の素晴らしさにも、あらためて思いが至る。(音楽現代 2021年2月号 茂木一衞氏の評)

 

 小倉貴久子は、日本を代表するフォルテピアノ奏者。東京藝術大学大学院とアムステルダム音楽院に学び、日本モーツァルト音楽コンクールやブルージュ国際古楽のコンクールで優勝。舞台で演奏する機会も多く、これまでにリリースしたフォルテピアノによるCDの数も膨大である。ベートーヴェン・イヤーの2020年、小倉はベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタ3曲をレコーディング。演奏に使用されたのは、J.B.シュトライヒャー製作のフォルテピアノ(1845年)。颯爽と駆け抜けるようなテンポで、小倉は音楽の強い流れを創り上げてゆく。楽譜に記された複雑な音の綾を弾きこなす強い指の持ち主である。急速な楽想やフーガなど、テーマやモティーフを緊密に構築する場面においても、卓抜な指裁きを通して迫真的な緊張感を創出する。楽器の特性を活かしたダイナミックな表現に、彼女の熱いパッションを覚える。(ショパン 2021年2月号 CD PICK UP 道下京子氏の評)

 

 フォルテピアノの名手による、ベートーヴェン後期の傑作「ハンマークラヴィーア」までのソナタ3曲(27番、28番、29番)を収録した作品集。1845年製のフォルテピアノ(J.B.シュトライヒャー)を使用した演奏は、古楽器のイメージをはるかに超えてダイナミックかつ繊細。フォルテピアノ特有の音色でベートーヴェンの作品を生き生きと、大胆に蘇らせる。現代のピアノとは異なる音色の深みに、時代を超えたイメージが広がるロマンティックな作品。(月刊ピアノ 2021年2月号)