《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》には毎回、モーツァルトと関わりのある作曲家等をひとりずつゲストとして迎えます。 モーツァルトとゲスト作曲家のクラヴィーアのソロ作品、またピリオド楽器奏者と共にお届けする室内楽、連弾、歌曲などなど、お話を交えながらのコンサートです。 18世紀にタイムスリップしたかのようなひととき、《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》にみなさまをご案内いたします!
《第17回》
2015年5月12日(火)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第17回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕J.G.エッカルト Johann Gottfried Eckard [1735-1809]
小倉 貴久子(クラヴィーア)
J.G.エッカルト:ソナタ イ長調 作品1-4、ソナタ ハ長調 作品1-5、ソナタ ホ長調 作品2-2、ソナタ ト短調 作品1-2、エグゾデのメヌエットによる6つの変奏曲 変ホ長調
W.A.モーツァルト:〈ロンドンのスケッチブック〉より小品 ト長調 KV15e、ソナタ ハ長調 KV279 (189d)、ソナタ ハ長調 KV309 (284b)
(写真はゲネプロの様子)
〔コンサートの聴きどころ〕第17回:J.G.エッカルト
モーツァルトの父レオポルトの故郷アウグスブルク出身のエッカルトは、同じ街に住む鍵盤楽器製作家J.A.シュタインと共に1758年、パリに向かいます。当初細密画を描いて生計を得ていましたが、演奏会が人気を呼び音楽家として有名になり、終生パリに住むことになります。グリムは「彼は天才であり、この上なく美しい楽想を持ち、その演奏法は感受性に満ち、しかも非常に軽やかである」と評しています。彼のそんな華やかな技量は出版された2巻のソナタ集と変奏曲の中に存分にうかがえます。モーツァルトが1763年末パリに到着する前後に出版されたこれらの作品は、細かな強弱記号や特有のパッセージをもつフォルテピアノを意識して書かれたパリにおける最初の曲集です。
パリでエッカルトの譜面を入手したモーツァルト一家は興奮を隠せません。ヴォルフガングはエッカルトのソナタをコンチェルトに編曲しています(K.40第2楽章)。知られざる天才エッカルトの魅力に迫ります。
〔第17回公演報告〕
モーツァルトの父、レオポルトの故郷アウグスブルクには、クラヴィーア製作家のA.シュタインが工房を構え、J.G.エッカルトが生を受けています。この二人は共にパリに赴き、エッカルトはパリに住みつきました。そこで新しく世に現れたフォルテピアノを意識した作品を発表したエッカルト。軽妙で機微に富む彼の作品は、軽やかなシュタインのクラヴィーアにとてもマッチしていました。作品も驚くべく天才の証がそこここに!レオポルトが高く評価し、モーツァルトが模範と仰いだというのは本当でした!
公演の模様
第17回公演の使用楽器:Klavier made by Rien Hasselaar after J.A.Stein [1780s]
《第18回》
2015年7月6日(月)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第18回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕N.-J.ヒュルマンデル Nicolas-Joseph Huellmandel [1756-1823]
小倉 貴久子(クラヴィーア)・大西律子(ヴァイオリン)
N.-J.ヒュルマンデル:段階的に難度が上がる小エール集 作品5より 第12番 ハ長調、第13番 イ短調、第23番 イ長調、ヴァイオリン伴奏付きソナタ 変ホ長調 作品1-2、6つのディヴェルティスマン(もしくは小エール第2組曲)作品7より
W.A.モーツァルト:〈ロンドンのスケッチブック〉より小品 ハ長調 KV15f、ヴァイオリンの伴奏付きソナタ ニ長調 K.7、ヴァイオリンソナタ ホ短調 K.304、ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 K.481
(写真はゲネプロの様子)
〔コンサートの聴きどころ〕第18回:N.-J.ヒュルマンデル
鍵盤楽器とグラスハーモニカを得意としたモーツァルトと同い年のヒュルマンデルはストラスブールに生まれ、ヴァイオリニストであった父から、そして聖歌隊の一員としてその指導者から音楽教育を受けました。1776年頃にパリに移住、クラヴィーアの演奏で貴族社会や社交界で注目を浴び、当時この街で流行っていたヴァイオリンの伴奏付きクラヴィーアソナタを出版します。1778年、母と共にパリを訪れていたモーツァルトはこの楽譜を入手し「とてもすばらしい」と父に報告しています。ヒュルマンデルは《百科全書》の執筆者として〈クラヴサン(チェンバロ)〉の項目を担当し、その中で新出のフォルテピアノを対置し美点を述べています。作品における強弱法やピアニスティックな書法からも、彼の傾向をうかがうことができます。
マリー・アントワネットに献呈したヒュルマンデルのヴァイオリン伴奏付きソナタ作品1や、モーツァルトのヴァイオリンソナタの名作をお届けします。
〔第18回公演報告〕
ストラスブールにモーツァルトと同年に生まれたヒュルマンデルが今回のゲスト作曲家。モーツァルトが幼年時にパリで書いたヴァイオリン伴奏付きのクラヴィーアソナタは、このヒュルマンデルや第12回で扱ったH.ジャダンの作品がモデルとなったものです。
今回の演奏家ゲストはヴァイオリンの大西 律子さん。大西さんとはかつてモーツァルトのCDをつくったり、リサイタルを共にしたり気心知れた間柄ですが、久しぶりの共演となりました。
ヴァイオリン伴奏付きの作品でのモーツァルトやヒュルマンデルの目指した効果はここにあり、という的を射た表現。モーツァルトの大きな2作品でも、大西さんの自然で古典派音楽への愛にあふれる演奏に小倉貴久子も大いに共鳴し、今回もとても幸せな回になりました。
公演の模様
第18回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]
《第19回》
2015年9月7日(月)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第19回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕J.B.ヴァンハル Johann Baptist Vanhal [1739-1813]
小倉 貴久子(クラヴィーア)・坂本 徹(クラリネット)・成田 寛(ヴィオラ)
J.B.ヴァンハル:クラリネット・ソナタ 変ロ長調/ヴィオラ・ソナタ ヘ長調 作品5-3、クラヴィーア・ソナタ 作品30より第1番 ニ短調
W.A.モーツァルト:小品 K.15g、フィッシャーのメヌエットの主題による12の変奏曲 ハ長調 K.179、クラリネットとヴィオラ、クラヴィーアのためのトリオ 変ホ長調 K.498〈ケーゲルシュタット〉
〔コンサートの聴きどころ〕第19回:J.B.ヴァンハル
シンフォニーを100曲以上、協奏曲や室内楽作品、声楽作品を合わせると、生涯に作曲した作品は1000曲を下らないという多作家。特にシンフォニーはヨーロッパを超えアメリカまで広く知られていました。ヴァンハルはハイドンなどウィーンに集う作曲家たちと影響を及ぼし合いながらソナタ形式を始めとする形式美をつくり上げ、また激しく多感な感情表現が印象的な短調作品を残しています。
ヴァラエティに富む室内楽の楽器編成は、演奏家との交流が豊かに行われていたことの証です。ヴィオラのため、クラリネットのために書かれたソナタ。そしてモーツァルトの室内楽からは屈指の名曲〈ケーゲルシュタット・トリオ〉をお届けします。1777年10月19日にアウグスブルクでモーツァルトはヴァンハルのヴァイオリン協奏曲を演奏。またその晩のコンサートでは、「フィッシャーの主題による変奏曲」をクラヴィコードで演奏しています。当シリーズ初登場になるクラヴィコードにもご期待ください。
〔第19回公演報告〕
18世紀音楽愛好家の中では名の知られたヴァンハルの登場となった第19回!クラリネットの坂本徹さん、ヴィオラの成田寛さん、お二方それぞれとの洒落たヴァンハル作曲のソナタ。ニ短調の疾風怒濤様式のドラマティックなクラヴィーアソナタ。モーツァルトのケーゲルシュタットトリオ。シリーズ初登場となったクラヴィコードを用いて、フィッシャーのメヌエットによる変奏曲を演奏。盛りだくさんの18世紀的バラエティーショーのような愉しいプログラムとなりました。満員御礼のお客さまにお集まりいただき6度目のチクルスを盛況に終えることができました。
「音楽の友」2015年11月号《コンサート・レビュー》
小倉貴久子 fp
小倉貴久子が続けている、モーツァルトとその周辺の作曲家たちを取りあげるコンサート・シリーズの一環。今回はモーツァルト8歳の作品1曲と、「変奏曲」ハ長調K179(フィッシャーのメヌエットによる)、「クラヴィーア、クラリネットヴィオラのための三重奏曲(俗称《ケーゲルシュタット・トリオ》)に、ボヘミア出身の作曲家ヴァンハル(1739~1813)の作品 「ヴィオラ・ソナタ」ヘ長調、「クラリネット・ソナタ」変ロ長調、「鍵盤用ソナタ」ニ短調 を組合せた、興味深く聞き応えもあるプログラム。小倉はフォルテピアノのほかモーツァルト「変奏曲」ではクラヴィコードも披露したが、いずれも楽器の味わいを知り抜いた達演。加えてヴィオラの成田寛、クラリネットの坂本徹も、練達の古楽エキスパート。小ホールとは言え、毎回満員のファンを集めて催すこのシリーズの意義は大きい。小倉貴久子の人柄も魅力の源泉をなすと言えよう。(9月7日・近江楽堂)〈濱田滋郎氏〉
公演の模様
第19回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]
Clavichord made by Kenta Fukamatti after Ch.G.Hubert [1770s]