小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》

シリーズコンサート 公演記録(第3チクルス:第7回、第8回、第9回)

《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》には毎回、モーツァルトと関わりのある作曲家等をひとりずつゲストとして迎えます。 モーツァルトとゲスト作曲家のクラヴィーアのソロ作品、またピリオド楽器奏者と共にお届けする室内楽、連弾、歌曲などなど、お話を交えながらのコンサートです。 18世紀にタイムスリップしたかのようなひととき、《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》にみなさまをご案内いたします!

《第7回》

2013年3月15日(金)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂

《第7回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕J.S.バッハ Johann Sebastian Bach [1685-1750]

小倉 貴久子(チェンバロ&フォルテピアノ)

J.S.バッハ:

平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番「プレリュードとフーガ」ハ長調 BWV846/イタリア協奏曲 BWV971/フランス風序曲 BWV394

 

モーツァルト:

アンダンテ ハ長調 K.1a/プレリュードとフーガ ハ長調 K.394/クラヴィーアソナタ ヘ長調 K.533+K.494

〔コンサートの聴きどころ〕第7回:J.S.バッハ
ファン・スヴィーテン男爵との出会いは、モーツァルトにとって運命的なものでした。「ぼくは毎日曜日12時に、スヴィーテン男爵のところへ行きます。そこでは、ヘンデルとバッハ以外は何も演奏されません。」と、ウィーン移住後の1782年4月に父宛に書いています。スヴィーテン男爵は、1770年〜77年、駐プロイセン大使としてベルリンに滞在し、その地でJ.S.バッハの作品を知り、数々の作品の楽譜を入手してウィーンに持ち帰ります。モーツァルトはこのコレクションに刺激を受け《平均律クラヴィーア曲集》などを通じフーガの研究に没頭します。フーガ好きの妻コンスタンツェにせがまれて書いたプレリュードとフーガ K.394。対位法を自在に駆使したソナタ K.533+K.494。J.S.バッハの珠玉の名曲〈イタリア協奏曲〉、〈フランス風序曲〉をお聴きいただきます。

〔第7回公演報告〕

モーツァルトとJ.S.バッハの意外な関係。確実にモーツァルトが知っていたと思われる、バッハの平均律クラヴィーア作品集から第1巻のハ長調の「プレリュードとフーガ」と、モーツァルトがこのフーガのテーマを転用した同名の作品を並べて演奏。フーガが多用されているモーツァルトのソナタK.533+K.494を、バッハの「イタリア協奏曲」の後に聴くことにより、世代を超えたふたりの偉大な才能に密接な繋がりがあることが分かりました。第7回の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》は、加屋野木山さんのanonymousチェンバロとワルター・フォルテピアノの2台を持ち込み、バロック音楽と古典派の響きの違いと同質性などにも想いを至しました。

〔当日のアンケートより〕

・そのライブ感は抜群で、心の動きまで手に取るように伝わる演奏に唖然とするばかりでした。心と身体が一体化し、音と鳴って放射しているような感じです。「音楽はこうでなくっちゃ」と納得させる名演奏でした。

・J.S.バッハ フランス風序曲が特にすばらしく好きになりました。お話も演奏もすべて心豊かにゆったりぜいたくなひとときでした。夢のような演奏会でした。

・至福の一夜を有難うございました。チェンバロ、クラヴィーアに依るバッハ、モーツァルト。それぞれの意味と表現!

・これほどチェンバロの上部と下部の使い分けが分かった演奏会は初めてでした。素晴らしかった。

・モーツァルトとバッハの関係は知ってはいましたが、こんな風に並べて聴いたことがなかったので、とても新鮮でした。かつ、いままで聴いたどの鍵盤楽器演奏会より感銘を受けました。

公演の模様


第7回公演の使用楽器:Harpsichord made by Moxam Kayano [2009]

           Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第8回》

2013年5月28日(火)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂 

《第8回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕J.ショーベルト Johann Schobert [1735-1767]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・若松 夏美(ヴァイオリン)

J.ショーベルト:

クラヴィーアソナタ ハ長調 作品1-2/ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ 変ロ長調 作品14-2

 

モーツァルト:

アレグロ ハ長調 K.1b/ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ ハ長調 K.6/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ニ長調 K.306 (300i)/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ イ長調 K.526

〔コンサートの聴きどころ〕第8回:J.ショーベルト

初期ヴァイオリンソナタ(K.6~15、K.26~31)は「ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ」として作曲されています。このスタイルは18世紀中頃、パリのサロンで大人気のジャンルでした。1763年にパリを訪れたモーツァルト親子はショーベルトと出会います。ショーベルトは当時パリで最も活躍していた作曲家の一人です。「ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ」には彼の魅力が満載です。K.6の第4楽章は、ショーベルトのソナタ作品1-2の第3楽章に極似。少年モーツァルトがショーベルトの作品を研究していたことが分かります。ヴァイオリンと共に演奏することで、作品の輝きや喜びが一層顕著となるこのスタイルと、その後ヴァイオリンパートが充実してデュオソナタの様相をなしてくる1778年パリで書かれた華麗なK.306、ウィーン円熟期のK.526などをお楽しみいただきます。

〔第8回公演報告〕

モーツァルトの最初の出版作品は、ヴァイオリンの伴奏付きクラヴィーアソナタというもの。7歳で訪れたパリで流行っていたのがこの形態の作品でした。クラヴィーアを弾く淑女、そして狩に忙しくあまりヴァイオリンを練習する時間の取れなかった貴族の子弟との仲を取り持つ役を担ったのでしょうか!

ともかく、この作品をパリで量産していたのが、ショーベルト。モーツァルトはショーベルトから大いに影響を受け、「ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ」をまとめて作曲しました。そんな両者の作品の聴きくらべ、そして、プログラムの後半では、若松夏美さんと2曲の大きなソナタを演奏しました。

モーツァルトのソナタを弾くのは久しぶりという若松夏美さん。なんと自然にモーツァルトの湧き出て来る演奏だったことでしょう。とりわけ大きな盛り上がりをみせた第8回公演となりました!

「音楽の友」2013年7月号《コンサート・レビュー》

小倉貴久子(クラヴィーア)

クラヴィーアの小倉貴久子主宰の「モーツァルトのクラヴィーアのある部屋」第8回。これまでもハイドン、コジェルフ、クレメンティ等18世紀の主要作曲家に焦点をあててきたが、今回はハイドンと同世代のヨハン・ショーベルトとモーツァルト。ゲストは多くの古楽オーケストラで名コンサートマスターとして活躍する若松夏美。ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーア・ソナタがやがて真の二重奏ソナタへと発展してゆく様式変遷を目の当たりにした。主題のよく似たショーベルトの作品と少年モーツァルト作品を並べて、影響関係などを暗示させるといった選曲の妙も楽しめた。モーツァルト作品にはない驚く程大胆な表現をもち、様々な工夫に富んだショーベルトの「ソナタ」Op.14-2という傑作を味わえたのもこの企画の魅力。モーツァルトのK306とK526のソナタでは小倉と若松が丁々発止の鬩ぎあいで高揚感溢れる熱演を聴かせた。(5月28日・近江楽堂)〈平野 昭氏〉

公演の模様

第8回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第9回》

2013年7月25日(木)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂 

《第9回》公演は終了しました!

〔ゲスト作曲家〕J.N.フンメル Johann Nepomuk Hummel [1778-1837]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・菊池 香苗(クラシカル・フルート)

J.N.フンメル:

フルートソナタ ト長調 作品2-2/クラヴィーアソナタ ヘ短調 作品20/フルートソナタ ニ長調 作品50

 

モーツァルト:

クラヴィーアのための小品 K.9b/フルートソナタ ト長調 K.11/クラヴィーアソナタ ハ長調 K.545/ドゥゼードの「リゾンは森で眠っていた」の主題による9つの変奏曲 ハ長調 K.264

〔コンサートの聴きどころ〕第9回:J.N.フンメル

フンメルは8才の時モーツァルトに弟子入りします。才能溢れるフンメルをモーツァルトは可愛がりました。モーツァルト主催の演奏会に出演するなど早い成長を見せたフンメルは、11才でピアニストとして自立。演奏旅行では自作曲に交えて、モーツァルトの「リゾンは森で眠っていた」の変奏曲を演奏した記録が残っています。フンメルのピアノソナタ作品20の終楽章は、モーツァルトの交響曲第41番終楽章の主題によるフーガが展開。モーツァルトから受け継いだ均整美と優美さを特徴とするフンメルのピアノ演奏は、保守的な音楽ファンを惹き付け、ウィーン音楽界はベートーヴェン派とフンメル派に分かれて音楽論争談義が白熱します。華麗なテクニックで、終世ウィーン式アクションのピアノを愛用したフンメルが出版した《ピアノ奏法(1828年)》は、19世紀初頭ウィーンのピアニズムを知る貴重な書です。

〔第9回公演報告〕

フルートの菊池香苗さんの音色とグレーバーのクラヴィーアの音色が心地よく、優しいモーツァルトと、フンメルの初期ロマン派の音楽が、近江楽堂に響きました。「フンメルが最も好き」というお客様もいらして下さり、シリーズ9回目にして、初めてのモーツァルトより年下のゲスト作曲家に会場が沸きました。写真は、リハーサルの模様です。

公演の模様

第9回公演の使用楽器:Klavier made by Johann Georg Greber [1820]