《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》には毎回、モーツァルトと関わりのある作曲家等をひとりずつゲストとして迎えます。 モーツァルトとゲスト作曲家のクラヴィーアのソロ作品、またピリオド楽器奏者と共にお届けする室内楽、連弾、歌曲などなど、お話を交えながらのコンサートです。 18世紀にタイムスリップしたかのようなひととき、《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》にみなさまをご案内いたします!
《第34回》
2018年10月15日(月)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第34回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕J.S.バッハ Johann Sebastian Bach [1685-1750]
小倉 貴久子(クラヴィーア)
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より 第17番 変イ長調 BWV862/平均律クラヴィーア曲集 第2巻より 第7番 変ホ長調 BWV876/ファンタジーとフーガ イ短調 BWV904/パルティータ 第4番 ニ長調 BWV828
W.A.モーツァルト:小品 ハ短調 K.15z/フーガ ト短調 K.401/ソナタ 変ホ長調 K.282/ソナタ ト長調 K.283
(写真はゲネプロの様子)
〔コンサートの聴きどころ〕第34回:J.S.バッハ
ファン・スヴィーテン男爵を介して知ったJ.S.バッハの作品からモーツァルトは大きな影響を受けました。このバッハ体験は《第7回》で焦点を当てましたが、今回はタンゲンテンフリューゲル(以下タンゲンテン)との関連を軸にモーツァルトとバッハの作品に光を当てます。タンゲンテンはチェンバロに似た音色で、タッチにより音の強弱がつけられるため「表情豊かなチェンバロ」として18世紀のドイツで愛好されました。「ピアノの発明者クリストーフォリ」を知らなかった1717年に、ドイツでこのアクションを考案したCh.G.シュレーターは、「我こそピアノの発明者」と主張しました。バッハはシュレーターと親しかったので、タンゲンテンを演奏した可能性があります。
モーツァルトを夢中にさせたバッハの《平均律クラヴィーア曲集》《パルティータ》。ザルツブルグではシュペート製のタンゲンテンを愛用していたモーツァルト。新たな初期のソナタ像が浮かび上がることでしょう。
〔第34回公演報告〕
ザルツブルクでの青年モーツァルトが愛用していた鍵盤楽器のひとつはシュペート製のタンゲンテンフリューゲルでした。今回の公演で持ち込んだタンゲンテンフリューゲルは、Ch.G.シュレーターが1717年に書いた設計図を基に久保田彰が2017年に仕上げた楽器。シュレーターと親しくしていたJ.S.バッハにとって、強弱の可能なチェンバロの様相をもつタンゲンテンフリューゲルはどのような位置づけだったのでしょうか。
この日演奏したモーツァルトの2曲のソナタは、シュペート製のタンゲンテンフリューゲルが作曲者の身近にあったころの作品。作品の息づくさまが生々しく演奏者自身も興奮。J.S.バッハ渾身の〈パルティータ〉が表情豊かに歌われ、またバッハのフーガとモーツァルトのフーガの競演に会場が沸きました。
「音楽の友」2018年12月号《コンサート・レビュー》
10月15日・東京オペラシティ近江楽堂・J.S.バッハ《平均律クラヴィーア曲集第1巻》から第17番、同《平均律クラヴィーア曲集第2巻》から第7番、モーツァルト「ソナタ」K282、同「ソナタ」K283、J.S.バッハ「パルティータ第4番」、他
昨今はクラヴィーア音楽への理解と関心が画期的に高まってきたが、その状況を拓いた最大の功労者の一人が小倉貴久子である。時に2ヶ月に1度のハイペースで開催している「モーツァルトのクラヴィーアのある部屋」の第34回は、久保田彰氏製作のタンゲンテンフリューゲル(2017年)を使用して、J.S.バッハとモーツァルトの関連性を解き明かした。着想のゆたかさ、掘り下げの深さ、説得力溢れるトークも魅力だが、何よりも、楽器に命を吹き込み人格すら宿らせる高次の演奏力が来聴者を魅了し、次回にも足を運ばせていると痛感する。チェンバロからフォルテピアノへの過渡期のクラヴィーアであるタンゲンテンフリューゲルの性能が活かされていて、細かく強弱がつけられ、精妙なアゴーギグも駆使された。その演奏は驚くほど起伏豊かである。モデレーターが装備されているそうだが、それも使いこなされて音色の変化によっても聴き手を楽しませた。両作曲家のつながりを説く選曲ばかりではなく、最後に「パルティータ第4番」という大曲が置かれたことも演奏会を充実感のあるものにした。〈萩谷由喜子氏〉
第34回公演の使用楽器:Tangentenflügel made by Akira Kubota
《第35回》
2018年12月27日(木)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第35回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕A.エーベルル Anton Eberl [1765-1807]
小倉 貴久子(クラヴィーア)・荒木 優子(ヴァイオリン)
A.エーベルル:トッカータ ハ短調 作品46/クラヴィーアソナタ ハ短調 作品1/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ニ短調 作品14
W.A.モーツァルト:小品 変ロ長調 K.15w/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ イ長調 K.305/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調 K.454
(写真はゲネプロの様子)
〔コンサートの聴きどころ〕第35回:A.エーベルル
モーツァルトの精神を受け継ぎ、ロマン派を見据えるような作品を書いたエーベルル。ベートーヴェンの〈英雄〉初演時に一緒に演奏されたエーベルルのシンフォニー変ホ長調が当時、〈英雄〉よりも高い評価を受けたという逸話からも、この作曲家の実力の程を知ることができます。特に初期の作品にはモーツァルトの作風を彷彿とさせるものがあり、生前から彼の名ではなくモーツァルトの名で出版される作品が後を絶たず、エーベルルはその誤りを正すために苦労をすることにもなりますが、それだけ両者の作品には似通っていたものがあるという証明にもなっています。
当公演では、アルタリア社からモーツァルト「最後の偉大なソナタ」と銘打って出版された92年に書かれたエーベルルの作品1のソナタ、ピアノ音楽の街ウィーンから生まれた「トッカータ」、ベートーヴェンと比肩するヴァイオリンソナタを。モーツァルトの作品からは名品ヴァイオリンソナタを2曲お届けします。
〔第35回公演報告〕
自身の作品がモーツァルトの作品として出版されることの多かったA.エーベルル。作風はベートーヴェンのようなドラマティックさをあわせもっています。当時、ベートーヴェンの交響曲《英雄》と共に初演された エーベルルの交響曲は《英雄》より高い評価だった!というエピソードも彼の尋常ならざる天才性を物語っています。モーツァルトが意識していたコジェルフの作品にも通じる面も。18世紀末から19世紀初頭のウィーンの楽壇の特徴、嗜好がエーベルルの作品には隅々まで息づいています。ウィーンが生んだ作曲家エーベルルとモーツァルトを交互に聴くプログラムに今宵も多くのファンにお集まりいただきました。
ヴァイオリンの荒木優子さんの音色がフォルテピアノと溶け合い、美しく柔らかな世界が広がり特別な夜となりまし た。エーベルル、今後、ますます注目、弾いていきたいと思いを新たにしました。
第35回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]
《第36回》
2019年3月27日(水)午後7時開演(開場6:30)
近江楽堂
《第36回》公演は終了しました!
〔ゲスト作曲家〕J.S.シュレーター Johann Samuel Schroeter [c.1752-1788]
小倉 貴久子(クラヴィーア)・渡邉 さとみ(ヴァイオリン)
松永 綾子(ヴァイオリン/ヴィオラ)・懸田 貴嗣(チェロ)
J.S.シュレーター:ヴァイオリンとバスつきのクラヴィーアソナタ ニ長調 作品2-1/クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 作品4-5/コンチェルト ハ長調 作品3-3
W.A.モーツァルト:小品 ハ長調 K.15x/ディヴェルティメント(三重奏曲) 変ロ長調 K.254/
クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 K.301/四重奏曲 ト短調 K.478
〔コンサートの聴きどころ〕第36回:J.S.シュレーター
ライプツィヒの音楽家の家系に生まれたヨハン・ザムエル・シュレーターは、一家でヨーロッパを巡演した際にロンドンにとどまり、その地でクラヴィーアの名手として名を挙げます。特に(チェンバロではなく)ピアノの特性を生かした、速いパッセージでも優美に歌う奏法で人気を呼び、イギリス宮廷とも深く関わりをもつようになり、宮廷内でのコンサートや音楽教師として活躍しました。ロンドンでクラヴィーアの入った室内楽作品を次々に出版し、それらの楽譜を見たモーツァルトは、彼の作品3のクラヴィーア協奏曲に感銘を受けカデンツァを作曲しています。モーツァルトのクラヴィーア協奏曲に与えた影響は見過ごせません。
今夕は、そんなモーツァルトの源泉を聴くようなシュレーターの弦楽器とクラヴィーアのための作品各種。モーツァルトのヴァイオリンソナタとディヴェルティメント(トリオ)と、珠玉の名曲ト短調のカルテットを色彩豊かにお届けします。
〔第36回演奏会報告〕
小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第36回のゲスト作曲家はJ.S.シュレーター。シュレーターはイギリスで活躍したクラヴィーアの名手で、モーツァルトは彼の作品から影響を受けています。シュレーターの亡き後に残された妻と、かのJ.ハイドンが恋仲になった記録があったりと、彼の周辺には興味深い物語が。
共演はヴァイオリンの渡邊さとみさん、松永綾子さんにはヴィオラにも持ち替えてもらいました。チェロは懸田貴嗣さん。
モーツァルトの名品、ト短調四重奏曲をトリに演奏。ミューズの愛が降り注いだ魅力的な、古典派特有のユートピアムード満載の、このシリーズの真骨頂の回となりました。
第36回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]